利用者に声をかけても返事がない、何度説明しても準備が進まない。
障害福祉の仕事を始めたばかりの頃は、「何と言えばよいのだろう」と迷う場面もあります。
声かけでは、短く具体的に伝え、本人の反応を見ながら伝え方を調整します。
同じ言葉でも、理解の仕方やその日の状態、支援員との関係によって伝わり方は変わります。
この記事では、新人支援員に向けて、伝わりにくい声かけの理由と言い換え例、日常場面での考え方を紹介します。
言葉を一律に禁止するのではなく、なぜその場面では伝わりにくいのかを考えていきます。
障害福祉の声かけは「正解の言葉」より伝わり方を見る

声かけの目的は、本人が状況を理解し、自分の意思を伝えたり、必要な行動を考えたりできるよう支えることです。
支援員の予定どおりに動いたかだけで、よい声かけだったかを判断するものではありません。
厚生労働省の「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(第2版)」では、自己決定の尊重を基本とし、本人が理解できるように情報の説明を工夫することが示されています。
私自身も、利用者一人ひとりに合わせて声のかけ方を変えています。
短く具体的に、一度に多く伝えすぎない
「準備をしてください」だけでは、何から始めればよいか分からない場合があります。
外出前なら、「上着を着ましょう」と一つ伝えてから、次の準備を案内する方法があります。
弥富市の「障がいのある方と接するとき」でも、知的障害のある人への配慮として、話す内容を絞り、具体的に伝える工夫が紹介されています。
ただし、全員に説明を細かく区切る必要があるわけではありません。
本人に伝わる言葉や、普段の準備の仕方に合わせます。
すぐに反応を求めず、本人が理解する時間を待つ
返事がないと、聞こえていないのかと思い、すぐに声を重ねたくなることがあります。
しかし、本人が内容を考えていたり、返答しようとしていたりする可能性もあります。
すぐに別の言葉を足す前に、表情や動きを見ながら少し待つことも選択肢です。
待つ時間は一律の秒数で決めず、その人の普段の反応を参考にします。
急かさず待つことと、必要な支援をせずに放っておくことは分けて考えます。
言葉だけでなく表情・声の大きさ・周囲の環境も確認する
声かけを振り返る際は、声の大きさや表情、話しかける位置にも目を向けます。
厚生労働省の「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(第2版)」では、「意思決定支援に影響を与える要素」の「人的・物理的環境」で、職員との信頼関係や慣れない場所での緊張などが、本人の意思決定に影響することを説明しています。
伝わりにくい声かけの例と状況に応じた言い換え方
以下の言い換え例は、声かけを考える際の参考です。
そのまま当てはめず、本人の理解の仕方や、そのときの状況に合わせて調整してください。
「急いで」「ちゃんとして」など曖昧な言葉は具体的にする
「急いで」と伝えても、どの準備を進めてほしいのかは分かりません。
「ちゃんとして」も、支援員が求めている状態を本人が想像する必要があります。
| 伝わりにくい例 | 分かりにくくなる理由 | 別の伝え方の例 |
|---|---|---|
| 急いでください | 何を、いつまでにするかが曖昧 | 9時に出発するので、上着を着ましょう |
| ちゃんと片づけてください | 片づける物や場所が分からない | このコップを、流しに置いてもらえますか |
| もう少し待ってください | 待つ目安が分からない | お迎えは10時の予定です |
時刻を伝える例は、本人が時刻を理解でき、予定が確認できている場合に使います。
本人にとって何が分かりにくいのかを考え、情報を補います。
否定や命令だけで終わらせず、次にできることを伝える
「ダメです」「やめてください」だけでは、その後どうすればよいかが分からない場合があります。
使い終わった物を置く場所が違う場面なら、「そこじゃないです」とだけ伝えるより、「こちらの棚に置いてもらえますか」と置き場所を示す方法があります。
ただし、本人や周囲に差し迫った危険がある場面では、短い言葉で制止する必要もあります。
否定の言葉を一律に禁止せず、日常の案内と、すぐに危険を避ける場面を区別します。
「置いてもらえますか」と丁寧に言い換えても、本人に断る余地がなければ、一方的な指示になり得ます。
言葉遣いとともに、本人の返答を受け止める関わり方になっているかも振り返ります。
言い換えた後も本人の反応を見て調整する
言い換えた後は、返答や表情、行動を見て、伝わったかを確かめます。
動きがないことだけで「理解していない」とは判断できません。
内容は分かっていても、今はしたくないという意思を示している可能性もあります。
少し待つ、伝える内容を減らすなど、言い換えた後の反応から次の関わりを考えます。
場面別に考える利用者への声かけ
食事や入浴、外出準備では、支援員側にも予定があります。
各場面でも、本人の意思や状況に合わせて伝え方を考えます。
食事の場面では本人の状態や意思を確認して声をかける
食事へ誘っても動かないとき、「早く食べてください」と重ねる前に、食事の用意ができたことが伝わっているかを見ます。
「昼食の用意ができました」と伝えてから、「食堂へ行きますか」と本人の意思を聞く方法があります。
本人が食べたくないと伝えた場合は、その返答も受け止めます。
体調について気になる様子があれば、声かけだけで食事を進めようとせず、確認できたことを職員に伝えます。
入浴では急かさず、予定や選択肢を伝える
「お風呂の時間だから入ってください」だけでは、本人が今していることや希望が置き去りになる場合があります。
時間の調整ができるなら、「今、入りますか」と聞き、希望に応じて「テレビが終わってからにしますか」と別の選択肢を示す方法もあります。
選択肢は、実際に対応できる範囲で伝えます。
後から入浴できないのに「あとでもよい」と伝えると、本人が選んだことに応じられなくなります。
調整が難しいときも、予定を説明したうえで、本人が何に困っているのかを聞きます。
外出準備では「何を・いつまでにするか」を分けて伝える
外出前は、着替えや持ち物の確認などが重なります。
まとめて伝えると準備しづらい人には、出発時刻を知らせてから、必要な準備を一つずつ案内する方法があります。
例えば「9時に出発します」と予定を伝え、「かばんを持ちましょう」と次の行動を示します。
私の周囲では、通所の出発時刻が決まっている場面で、その先の楽しみを伝え、本人の関心を引こうとする対応を見かけます。
参考にする場合も、実際にある予定を伝え、本人の反応を見ます。
行動を切り替えてほしいときは見通しを持てる伝え方を考える
何かをしている途中で「もう終わりにしましょう」と言われても、いつ終えて、次に何をするのか分かりにくい場合があります。
次の予定が決まっているなら、切り替える前に、その活動を伝える方法を考えます。
例えば「この作業が終わったら、昼食に行きましょう」と、区切りと次の予定を示す言い方です。
本人が続けたい場合は、その希望を聞き、どこまでなら続けられるかを考えます。
同じ質問が繰り返されるときも背景や本人の反応を見る
同じ質問が続くと、「さっき答えました」と返したくなることもあります。
中野区の「障害者対応基本マニュアル」では、知的障害のある人への対応として、同じ質問が続く場合も時間をかけて関わることが紹介されています。
質問の繰り返しだけで、本人が聞いていなかったと決めつけないようにします。
例えば予定を何度も尋ねられたら、時刻や行き先など、答えの内容が本人に伝わっているかを見直します。
本人が文字で確認できる場合は、予定を書いたメモを一緒に見る方法も検討できます。
繰り返す理由は一つに決めず、返答した後の様子も見ます。
声かけが伝わらないときは利用者だけの問題にしない
声かけを変えても対応が進まないときは、本人の理解だけでなく、こちらの伝え方や周囲の状況にも目を向けます。
一度にすべてを変えようとせず、その場で見直せる点を探します。
言葉の難しさや情報量を振り返る
実際に伝えた言葉を思い返してみてください。
説明が長くなっていなかったか、普段使わない言葉や、曖昧な表現が入っていなかったかを見ます。
短くしたつもりでも、必要な情報まで省いている場合があります。
「出ますよ」だけでなく、「買い物に出かけます」など、本人が状況をつかむための情報は残します。
タイミングや騒音など周囲の環境を振り返る
本人が別の活動に集中しているときや、複数の職員が同時に話しかけているときでは、声かけの受け取り方が変わる可能性があります。
本人に聞こえる状況だったか、返答を待つ間にも次の声かけを重ねていなかったかを振り返ります。
テレビの音が大きければ、本人の意向も確かめながら音量や話す場所を調整するなど、言葉以外の変更も考えられます。
体調や気分など、そのときの本人の状態も考える
私が関わった場面では、説明しても対応が進まないとき、本人が落ち着かない状態にあることも多くありました。
そのようなときは、説明を重ねるより、いったん時間を置くことが多いです。
ただし、待てば対応が進むと断言できるわけではありません。
反応がないことを「不安定だから」と決めつけず、本人の返答や普段との違いを見ます。
原因が分からないときは、確認できた様子を共有します。
本人の気持ちや体調を、推測だけで説明しないようにします。
支援員によって反応が違うときは関わり方を共有する
他の職員だとやり取りが進む場合は、使った言葉だけでなく、声をかけたタイミングや、その前の関わり方も聞いてみます。
参考にした方法が自分にも同じように使えるとは限らないため、本人の反応を見ながら取り入れます。
私も、出発時刻が迫ったり、他の利用者への影響が出たりすると、余裕を失うことがあります。
否定しない伝え方を意識していても、何を言えばよいか分からなくなることがあります。
言葉の選び方を知っていることと、その場で実行できることには違いがあります。
時間の制約や対応の重なりも、振り返る際に残しておきたい情報です。
声かけだけで対応するのが難しい場面は、勤務先の連絡・応援の方法に沿って、他の職員や責任者に状況を伝えます。
声かけと利用者の反応を記録・共有して次の支援につなげる
次の関わりを考えるため、声かけの内容と、その後に確認した本人の反応を残してみましょう。
厚生労働省の「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(第2版)」では、「意思決定支援の根拠となる記録の作成」の項目で、本人の意思表示や支援の結果を記録し、今後の支援に生かす考え方が示されています。
何を伝え、本人がどう反応したかを残す
「声かけをしました」だけでは、どんな内容を伝えたのか分かりません。
記載が必要な場面では、いつ、何を伝え、本人がどう答えたり行動したりしたかを、確認できた範囲で整理します。
本人の発言や行動と、支援員が考えた理由は分けます。
返答がなかった場合も、気持ちを推測して「嫌がっていた」と置き換えず、見聞きした様子を残します。
すべての会話を記録するのではなく、次の支援で必要な情報を、勤務先の様式に合わせて選びます。
うまくいった声かけも職員間で共有する
困った場面に加え、本人に伝わりやすかった言葉やタイミングも、共有する材料になります。
「この声かけなら動く」とまとめるより、どの場面で何を伝え、その後どうなったかを示します。
声かけの後に変化があっても、その言葉だけが理由だったとは限りません。
声かけを固定ルールにせず、本人の変化に合わせて見直す
共有した声かけは、本人の反応を見ながら見直します。
一度やり取りが進んだ方法でも、本人の返答にかかわらず繰り返さないようにします。
記録の詳しい整理方法は、声かけと利用者の反応を支援記録に残す方法で解説しています。
記録する項目や申し送りの方法は事業所によって異なるため、勤務先のルールに合わせて活用してください。

まとめ|言い換えを試し、本人の反応から次の関わりを考える
障害福祉の声かけでは、短く具体的に伝えること、反応を待つこと、否定だけで終わらせないことが、伝え方を考える手がかりになります。
本人の意思やそのときの状態を見ながら、言葉やタイミングを調整します。
工夫しても対応が進まない場面はあります。
時間の制約や支援員自身の余裕も含めて振り返り、一人で判断しづらいことは職場で共有します。
次の支援では、一つの場面について「何を伝えたか」「本人はどう反応したか」を意識してみてください。
その反応を、次の声かけを考える材料にしていきましょう。

